大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)21号 判決 1992年9月28日

京都市伏見区醍醐御陵東裏町三八番地の五

原告

出野武

右訴訟代理人弁護士

岩佐英夫

吉田眞佐子

京都市伏見区鑓屋町無番地

被告

伏見税務署長 多田甲子夫

右指定代理人

源孝治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

被告が原告に対し昭和五八年三月四日付けでそれぞれした、原告の昭和五四年分の所得税の総所得金額を九二二万二、八三一円、同五五年分の所得税の総所得金額を九一二万四、三四一円、同五六年分の所得税の総所得金額を一、〇七〇万三、五三六円とする各所得税更正処分(以下、以上の各処分を「本件各処分」という)のうち、総所得金額につき昭和五四年分は二五一万二、八一二円、同五五年分は二四一万〇、七三五円、同五六年分は二〇七万一、五四四円を超える部分をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告は、書籍、雑誌、文房具及びたばこの卸、小売業を営む者である。

原告の、昭和五四年分ないし同五六年分の所得税の確定申告、更正、異議申立、異議決定、審査請求、裁決の経緯は、別表甲1のとおりである。

2  本件各処分は、以下の理由により違法である。

(一) 被告は、原告に対する税務調査において、事前通知や調査理由の開示をせず、第三者の立会いを認めず、また、原告の同意を得ず一方的に反面調査をして、本件各処分を行なった。

(二) 本件各処分のうち、原告の各申告総所得金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものである。

よって、原告は被告に対し、本件各処分のうち別表甲1の各年分の確定申告欄記載の金額を超える部分の取消を求める。

二  被告(認否、主張)

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の各事実を認める。

(二) 同2(一)、(二)をいずれも争う。

2  主張

(一) 事前通知、第三者の立会い、反面調査の同意について

税務調査につき事前にその通知をすること、調査理由を開示すること、第三者の立会いを認めることは、質問検査を行なうための法律上の要件ではない。また、反面調査について、法律上、納税者の同意は要求されていない。したがって、本件各処分は、税務調査の事前通知を欠き、第三者の立会いを認めず、反面調査に対する同意を欠くとしても、違法とならない。

(二) 事業所得金額

(1) 推計課税の必要性

被告は、本件係争各年分についての原告の申告にかかる所得金額が適正なものかどうかを確認するため、所属職員を原告の所得税調査に当らせた。

右職員は、昭和五七年八月三日から同五八年二月一七日までの間に一四回にわたって原告の経営する各店舗に臨場し、その際、あるいは、十数回に及び電話をして、原告に対して、本件係争各年分の事業所得の金額の算定の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めた。しかしながら、原告は、事前通知のないことを非難し、調査状況の録音や、第三者の同席等を求めるのみで、帳簿等の提示要求に応じず、調査に全く協力しなかった。

以上の経緯により、被告はやむを得ず、推計の方法により算出した金額に基づき本件各処分を行なったのであり、推計の必要性がある。

(2) 推計の合理性

被告が、原告の本件係争各年分の、書籍雑誌小売業及び文房具小売業にかかる事業所得金額の算定に用いた同業者の選定経緯及びその推計は、次のとおり合理的である。

イ 大阪国税局長は、原告の納税地を管轄する被告、原告の住所地と同一市内にある上京、中京、下京、右京、左京、東山、伏見、及び、原告の事業所の所在地を管轄する宇治、大津の各税務署長に対し、本件係争各年分を通じて次の<1>ないし<7>の各条件に該当するすべての青色申告者を抽出するように通達指示した。

被告らが、右抽出基準にしたがい抽出した同業者は、書籍雑誌小売業については、昭和五四年分及び昭和五六年分が四名、同五五年分が五名であり、文房具小売業については、同五四年分及び同五六年分が二九名、同五五年分が三〇名である。その売上金額、売上原価、原価率、算出所得、所得率等は、書籍雑誌小売業については別表乙5の、文房具小売業については別表乙6のとおりである。

<1> 年間を通じて事業を継続していること。

<2> 明確に区分計算している者を除き、他の業種目を兼業していないこと。

<3> 月賦販売、訪問販売などの特殊な販売形態を採っていないこと。

<4> 特殊商品の販売を主としていないこと。

右特殊商品の販売とは、書籍雑誌小売業においては、学校教科書、学術専門書、美術印刷書などの販売、文房具小売業においては、パン、たばこ、名刺印刷の取次ぎ、高額事務機器などの販売をいう。

<5> 自署管内に事業所を有していること。

<6> 対象年分の所得税について、不服申立又は訴訟が係属中でないこと。

<7> 書籍雑誌小売業については、売上原価が、昭和五四年分については七、〇〇〇万円以上二億八、三〇〇万円以下、同五五年分については七、〇〇〇万円以上二億八、二〇〇万円以下、同五六年分については七、七〇〇万円以上三億〇、九〇〇万円以下であること。文房具小売業については、売上原価が、昭和五四年分については二〇〇万円以上一、一〇〇万円以下、同五五年分については二〇〇万円以上一、〇〇〇万円以下、同五六年分については二〇〇万円以上九〇〇万円以下であること。

なお、右売上原価の範囲は、書籍雑誌小売業及び文具小売業ともに、被告が主張する原告の本件係争各年分の売上原価を基準として、各上限を約二倍、各下限を約半分とした。

ロ 右抽出基準によって抽出された同業者は、原告と、業種、業態、規模等の類似性を有する。しかも、すべて青色申告者であるから、その基礎数値は正確である。

そして、同業者の抽出は、大阪国税局長の発した通達に基づき、右抽出基準に該当する者の全てを抽出したものであるから、その抽出にあたって恣意の介在する余地がない。

したがって、被告が、右により選定された同業者の原価率、所得率等を用いて行なった、原告の本件係争各年分の事業所得金額の推計には、合理性がある。

(3) 事業所得金額の推計の手順

売上原価を実額で認定し、これを推計の基礎数値として、同業者率により算定された平均原価率で除し、売上金額を推計する。それで得られた売上金額に、同業者率による平均所得率を乗じて算出所得額を算定する。そして、この算出所得額から雇人費、地代家賃、事業専従者控除額等の特別経費額を差し引いて事業所得金額を算出する。

但し、たばこ関係の計算方法は後記(5)イ(ハ)、ロ(ハ)、ハ(ハ)のとおりである。

(4) 売上原価の計算方法(原告経営の店舗)

原告の売上原価は、そのうち、書籍、雑誌、文房具は原告が経営する次の醍醐、小栗栖、石田、山科、壬生、石山、大久保の七店舗の仕入額の合計の実額をもって計算する。

原告は、本件係争各年において、文星堂の屋号で、京都市伏見区醍醐下山口町一番地(以下、醍醐店という)、同区小栗栖南後藤町六番地(以下、小栗栖店という)、同区石田森ケ東六番地石田ショッパーズプラザ内(以下、石田店という)、同市山科区椥辻池尻町一三番地ダイコーショッピングセンター内(以下、山科店という)、同市中京区壬生坊城町四八番地一の一〇一(以下、壬生店という)、大津市大平町二丁目一五番地(以下、石山店という)、宇治市大久保大字上木五〇番地の二大久保ショッピングセンター内(以下、大久保店という)の七箇所の店舗を経営していた(但し、大久保店は昭和五五年一〇月ころ以降、石田店は同五六年一月以降のみ)。

(5) 事業所得金額の計算

イ 売上金額

本件係争各年分の売上金額は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額である。

(イ) 書籍、雑誌の売上金額

右は、後記ロ(イ)の本件係争各年分の売上原価を、別表乙5の各年分の同業者の原価率(売上金額に占める売上原価の割合)の平均値で除した金額であり、別表乙1ないし3の各「書籍・雑誌/売上金額」欄記載のとおりとなる。

(ロ) 文房具の売上金額

右は、後記ロ(ロ)の本件係争各年分の売上原価を、別表乙6の各年分の同業者の原価率の平均値で除した金額であり、別表乙1ないし3の各「文房具/売上金額」欄記載のとおりとなる。

(ハ) たばこの売上金額

右は、別表乙1ないし3の各「たばこ/売上金額」欄記載のとおりであり、その内訳は、別表乙7の<2>「たばこの差益金額の計算」の売上金額欄記載のとおりである。

ロ 売上原価

本件係争各年分の原告の売上原価は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額である。

なお、原告の事業において、書籍、雑誌の昭和五五年分及び同五六年分の中途で新規開店した大久保店及び石田店を除いては、係争各年分の期首、期末のそれぞれの棚卸高を同額と推定し、本件係争各年分ともそれぞれの年分の仕入れ金額を売上原価とした。

(イ) 書籍、雑誌の売上原価

別表乙4の<1>「書籍・雑誌の仕入金額」記載のとおりである。

なお、各店舗別の売上原価は、別表乙8のとおりである。

(ロ) 文房具の売上原価

別表乙4の<2>「文房具の仕入金額」記載のとおりである。

なお、各店舗別の売上原価は、別表乙9のとおりである。

(ハ) たばこの売上原価

前記イ(ハ)の、本件係争各年分の原告のたばこの売上金額から、後記ハ(ハ)の各算出所得金額を控除して得られる数額であり、別表乙1ないし3の各「たばこ/仕入金額」欄記載のとおりとなる。

ハ 算出所得金額

本件係争各年分の原告の算出所得金額は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額である。

(イ) 書籍、雑誌の算出所得金額

前記イ(イ)の本件係争各年分の売上金額に、別表乙5の各年分の同業者の所得率(売上金額に占める算出所得金額の割合)の平均値を乗じて得られる数額であり、別表乙1ないし3の各「書籍・雑誌/算出所得」欄記載のとおりとなる。

(ロ) 文房具の算出所得金額

前記イ(ロ)の本件係争各年分の売上金額に、別表乙6の各年分の同業者の所得率の平均値を乗じて得られる数額であり、別表乙1ないし3の各「文房具/算出所得」欄記載のとおりとなる。

(ハ) たばこの算出所得金額

本件係争各年分の、日本専売公社伏見営業所が原告に対し売り上げた金額(売価ベース、別表乙7の<2>「たばこの差益金額の計算」の各売上金額欄記載のとおり)に、たばこ専売法規則一八条所定の差益率を乗じて得られる数額であり、別表乙1ないし3の各「たばこ/算出所得」欄記載のとおりとなる。

ニ 雇人費

前記イ(イ)ないし(ハ)の本件係争各年分の原告の各売上金額に、別表乙5の各年分の同業者の雇人費率(売上金額に占める雇人費の割合)の平均値を乗じて得られる数額であり、別表乙1ないし3の各「雇人費」欄記載のとおりとなる。

なお、文房具小売業及びたばこ小売業においては、家族労働のみに依存している者も多く、同業者の平均雇人費率の算定が難しいため、一括して書籍雑誌小売業の平均雇人費率を適用したものであるが、雇人費率が高い部門の率による一括適用は、雇人費を過大に推計する可能性はあっても、これを過少に推計する余地はない。

ホ 地代家賃

別表乙4の<3>「地代家賃」記載のとおりである。

ヘ 事業専従者控除額

本件係争各年分とも、八〇万円である。

ト 事業所得の金額

原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、前記ハの各算出所得金額から、前記ニの各雇人費の金額、ホの各地代家賃の金額及びヘの各事業専従者控除額をそれぞれ控除した金額であって、別表乙1ないし3の各「事業所得金額/合計」欄記載のとおりとなる。

よって、本件各処分は、右事業所得の金額の範囲内でなされているから、いずれも適法である。

三  原告(認否、反論)

1  認否

(一) 被告の主張二2(一)を争う。

(二) 同二2(二)(1)のうち、被告の部下職員が小栗栖店に四回来店したことのみを認め、その余の事実を否認する。

(三) 同二2(二)(2)(3)を争う。

(四) 同二2(二)(4)のうち、原告が、本件係争各年分において、醍醐店及び小栗栖店を経営していた事実を認め、その余を否認する。

原告が石田店の経営を開始したのは、昭和五六年八月一日である。それ以前は、浅田善夫の経営であり、また、本件係争各年分において、山科店の経営者は杉森貞夫、石山店の経営者は昭和五五年一〇月頃までは北川武史、それ以降は藤本利一、壬生店の経営者は出野清、大久保店の経営者は河原林武弘である。なお、本件係争各年分の売上原価の実額は、後示2の各売上原価記載のとおりである。

(五)(1) 同二2(ニ)(5)イの売上金額をいずれも否認する。

(2) 同(5)ロのうち、(イ)(ロ)の売上原価をいずれも否認し、(ハ)のたばこの売上原価を認める。

(3) 同(5)ハの算出所得金額をいずれも否認する。

(4) 同(5)ニの雇人費をいずれも否認する。

(5) 同(5)ホの地代家賃のうち、小栗栖店及び石田店については否認し、山科店、石山店、壬生店及び大久保店については知らない。

(6) 同(5)ヘの事業専従者控除額をいずれも認める。

(7) 同(5)トの事業所得の金額の主張を争う。

2  反論(実額の主張)

原告の本件係争各年分の事業所得金額は、次のとおりである。

(一) 昭和五四年分

(1) 売上金額 一億二、六一〇万二、〇〇三円

(2) 売上原価 一億一、四三五万二、四七二円

(3) イ 一般経費 一八二万七、四八九円

ロ 特別経費 七六四万六、八一〇円

(4) 事業所得金額 一四七万五、二三二円

右は、売上金額から、売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額(八〇万円)を控除した金額である(別表甲2参照)。

(二) 昭和五五年分

(1) 売上金額 一億三、〇六三万四、六三七円

(2) 売上原価 一億一、六一五万一、六六七円

(3) イ 一般経費 二五四万三、六四一円

ロ 特別経費 六三七万二、二三八円

(4) 事業所得金額 四七六万七、〇九一円

右は、売上金額から、売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額(八〇万円)を控除した金額である(別表甲3参照)。

(三) 昭和五六年分

(1) 売上金額 一億三、六七七万五、二〇七円

(2) 売上原価 一億二、九七三万二、一九〇円

(3) イ 一般経費 四二七万一、一〇〇円

ロ 特別経費 八〇二万八、一一七円

(4) 事業所得金額 マイナス六〇五万六、二〇〇円

右は、売上金額から、売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額(八〇万円)を控除した金額である(別表甲4参照)。

四  被告(認否)

原告の反論三2の各事実をいずれも否認する。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の請求原因一1の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の請求原因一2(一)及び被告の主張二2(一)の事前通知、調査理由不開示、第三者の立会い、反面調査について検討する。

税務職員による質問検査につき、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、それが右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきである(最決昭和四八・七・一〇刑集二七巻七号一二一一頁、最判昭和五八・七・一四訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。そして、本件において、税務調査に際し事前通知をしなかったこと、調査理由を事前に開示しなかったこと、第三者を立ち会わせなかったことが調査担当職員の裁量権の濫用であるとか、本件調査がその必要なしに、あるいは社会通念上相当でない方法で行なわれた違法があるとすべき事情は、本件全証拠によっても認められない。

また、いわゆる反面調査について、納税者の同意ないし承諾を法律上の要件とする規定はなく、とくに、その同意ないし承諾を得る必要はない。質問検査の必要がある限り、前示質問検査の一つとして調査担当職員の合理的な選択の下に、反面調査をすることができる。

以上によれば、原告の請求原因一2(一)の主張は理由がない。

三  推計の必要性について

証人西村政則の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張二2(三)(1)の各事実が認められる。原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は、曖昧であり、遽かに措信できない。

したがって、本件では、推計課税の必要性が認められる。

四  推計の合理性について

1  同業者率の合理性

証人古本忠顕の証言により成立が認められる乙第二ないし第二五号証、証人古本の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張二2(二)(2)の事実が認められる。

右認定事実によれば、事業所得の推計に用いる同業者の選定基準は、業種の同一性、事業場所の近接性、事業規模の類似性等を確保する基準として合理的なものであり、その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められない。しかも、右の調査の結果得られる数値は、青色申告書に基づいたものでその申告が確定しており信頼性が高い。抽出した同業者数も、書籍雑誌小売業については四名ないし五名、文房具小売業については三〇名であることから、各同業者の個別性を平均化するに足るものである。したがって、右各同業者の平均値を基礎として同業者率により算出された原告の本件係争各年分の事業所得の金額の推計には、特段の事情がない限り、合理性があるものというべきである。

2  原告経営の店舗

売上原価算出の基礎となる被告の主張二2(二)(4)の店舗を原告が経営していたか否かにつき検討する。

(一)  本件係争各年において、醍醐店、小栗栖店が原告の経営にかかることは、当事者間に争いがない。

(二)  石田店、山科店、石山店、大久保店、壬生店について

(1) 一般的事項(各店舗共通)の検討

次の各括弧内記載の各書証、原告本人尋問の結果の一部、弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。

イ 書籍雑誌の仕入先である大阪屋との取引は、原告が昭和四四年七月一〇日に開始した。本件係争各年分の期間も、その取引名義は文星堂出野武という原告名義であり、各店舗ごとに取引契約をしていない(乙九一の二)。

ロ 大阪屋は、本件係争各年中、右仕入代金を、配送した店舗ごとに整理区分し、一括して原告に請求書を送付し、原告も一括これを支払っていた(甲一-三八頁、乙四三ないし六〇)。

ハ 本件店舗七店とも、文星堂という同一商号で書籍等を販売(小売)している。その際、顧客に販売書籍を入れて渡す紙袋がある。昭和五三、五四年使用分の紙袋には、醍醐本店、小栗栖店、山科店、壬生店、石山店が併記されているものと(乙四一の一)、醍醐店、小栗栖店、山科店、石山店、壬生店、石田店、大久保店、長岡店が併記されているものがある。(乙八八)。

ニ 原告が給与証明書等に使用しているゴム印は、次のように刻してあった。

(イ) 昭和五五年使用分 文星堂書店醍醐本店、小栗栖店、山科支店、石山支店。

(ロ) 昭和五八年使用分 文星堂書店醍醐店、小栗栖店、山科店、石山店、壬生店、石田店、大久保店、長岡店。

ホ 原告は、昭和五三年一月、全国信用金庫連合会へ、自宅購入資金の借入申込書を提出した。その「業況」欄に、次の記載をしている(乙三三 なお、乙三一の三、九〇、九四)。

「現在は本店、支店、と5店舗営業しており、不況にもかかわらず醍醐、小栗栖、山科は売上増」。年間売上高「二五六、九四七千円」。

従業員数「一五人」。

なお、大久保店設立は昭和五五年一〇月頃(乙九四)、石田店設立が昭和五六年一月(乙四七、五三、五九)であるから、昭和五三年当時の文星堂は、醍醐、小栗栖、山科、石山、壬生店の五店舗である。とすれば、前示借入申込書の「5店舗営業」との記載はこれと符合している。

ヘ 以上認定の各事実は、これを併せ考えると、原告が、被告主張のとおり、醍醐、小栗栖、山科、石山、壬生、石田、大久保、長岡店の各店舗を、文星堂という商号を用いて営業していたとの推認に結びつくものである。

そこで、以下、醍醐店、小栗栖店を除く争いのある六店舗につき、右認定事実があっても、なお、これらの店舗の経営者が原告でないといえるか否かを、順次検討する。

(2) 石田店について

イ 原告は、昭和五六年一月から同年七月までは、浅田善夫が石田店を経営していた旨主張し、それは、同年七月まで浅田善夫名義の店舗賃借権が存続していたためであるという。しかしながら、浅田名義の店舗賃借権が存続していたとしても、これが右の期間中も石田店が原告経営であると推認することを妨げるものではなく、これをもって右推認を覆すに足るものとはいえない。

ロ かえって、原告本人尋問の結果により成立が認められる甲第一四、第一六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(イ) 石田店所在地は、以前、浅田善夫経営のレコード店「完誠堂」であった。

(ロ) 浅田善夫は、昭和五五年一二月末日をもって完誠堂を閉店し、石田ショッパーズプラザを出ており、原告は、これに次いで、昭和五六年一月から同所で「文星堂石田店」として書店の経営を計画した。

しかし、完誠堂の店舗の賃貸借契約の期限が同五六年七月三一日であったので、同年一月一日以降七月三一日までは右賃貸借契約を存続させ、同年八月一日以降、原告名義の賃貸借契約が締結された。

ハ 右認定の各事実によれば、従前レコード店を経営していたが、同閉店後七か月経過後は文星堂石田店の経営に関与していない浅田善夫が、その中間の七か月の間だけ書店を経営するというのは、極めて不自然である。このことに加え、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一〇一号証、弁論の全趣旨を併せ考えれば、石田店は昭和五六年一月以降、少なくとも本件係争各年中は、原告の経営にかかるものと認められ、これに反する原告本人尋問の結果は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に反し、遽かに措信できず、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。

(3) 山科店について

イ 原告は、山科店は杉森貞夫の経営にかかるものであると主張し、本人尋問において、大要以下のとおり陳述する。

(イ) 原告と杉森は、園部囲碁クラブでの知り合いである。

(ロ) 原告は、昭和四九年六月、山科区のダイコーショッピングセンターへの書店を出店した。

(ハ) その後、杉森から、山科店の営業権を譲って欲しい旨の申出があり、昭和五〇年一月、約三〇〇万円で譲渡した。

ロ しかしながら、右イ(ハ)の営業権譲渡の事実については、その的確な裏付け証拠がなく、遽かに措信できない。この他、山科店が原告の経営でないことを示す的確な証拠が存在しない。

ハ なお、原告は、さらに、次のとおり主張し、本人尋問でもその旨を陳述して、前示推認をすべきでないという。

(イ) 杉森が原告から書籍雑誌類の卸売を受けた。

(ロ) それは、直接大阪屋と取引すると、信認金又は不動産の担保が必要なためである。

(ハ) 昭和五九年一一月から原告名義を借り、「文星堂外商部」名で大阪屋から直接送本を受けた。

(ニ) その後、原告の申入れで昭和六二年三月、杉森は、大阪屋と取引約定書を交わした(乙九一の五)。

ニ しかし、右ハの主張のうち、(ハ)(ニ)は、本件係争各年の後に行なわれた事項であって、これをもって遡って本件係争各年分の前示推認を破ることはできない。

また、(イ)(ロ)は、(イ)の卸売の事実を認めるに足る的確な裏付証拠がなく、その旨の原告本人尋問の結果の一部は、前認定(1)の各事実に照らし、遽かに信用できない。したがって、(ロ)の事実の存否を判断するを要しない。

(4) 石山店について

イ 原告は、次のように主張する。

(イ) 昭和五一年九月の開店後、石山店は、原告名義ではあるが、取次店から書籍雑誌を直接仕入れていた。

(ロ) 昭和五四年一月一日から同年一〇月頃まで、石山店の経営者は北川武史であり、同年一一月以降は、藤本利一である。

(ハ) 昭和五五年一〇月、原告は、新たに、「文星堂外商部」を設け、石山店の書籍雑誌は、「文星堂外商部」名義で一旦醍醐店に仕入れ、石山店に回していた。

ロ 右イ(イ)(ロ)(ハ)について、原告本人尋問の結果、陳述書(甲一一三)等では、大要以下のとおり述べられている。

(イ) 石山店は、北川武史が開店したものである。原告名義で書籍雑誌の仕入れをした理由は、原告名義での取引を増やすことによって、売筋の書籍の仕入れ等に関し取次店に対する交渉力が増すこと、また、北川、藤本両名が大阪屋から直接書籍等を仕入れることは、前示山科店の杉森と同様、担保や信認金が必要であったからである。

(ロ) 石山店の経営は思わしくなく、取次店に対する支払は滞りがちになった。そして、昭和五五年一〇月、北川は石山店を藤本利一に譲渡した。従前の支払が滞り、もはや取次店は石山店に直接書籍雑誌を卸さなくなった。そこで、原告は、醍醐店に「文星堂外商部」なる部門を設け、書籍雑誌を一旦醍醐店に仕入れ、石山店に回すようにした。

(ハ) 昭和五七年二月五日以降、藤本利一振出の小切手が大阪屋京都営業所に交付され、仕入代金の支払いを了している(甲一三三-昭和五七年二月五日、五月六日等)。

ハ 検討

(イ) 藤本は、昭和五六年分の確定申告書で、文星堂作成の給与支払明細書を添付し、給与所得の申告をしている(乙三一の一ないし九)。

(ロ) 昭和五五年一月に、原告は、大阪屋に対する負債一、二〇〇万円を支払っている(甲一-三八頁・昭和五五年一月七日品名欄「阪支払ずみ計1、200万円」の記載)。これは、昭和五四年一二月末の醍醐、小栗栖、壬生、石山店の四店舗の合計額一、二一四万余円にほぼ対応する金額である(乙四三ないし四六)。

(ハ) 原告は、熊本玩具から文星堂石山店への昭和五一年分の納品書を所持し、本訴に提出している(甲一九)。原告は、これを藤本から借用したというが、他方で、藤本は北川から昭和五五年一〇月より石山店を引継ぎ経営していると述べており、藤本が昭和五一年分の納品書を所持していたとは考え難い。

(ニ) 前示ロ(ハ)の藤本振出名義の小切手による支払は、昭和五七年二月以降のもので、これをもってそれ以前の昭和五四、五五、五六年の本件係争年の支払を認定することはできない。

(ホ) したがって、石山店は、前認定(1)の各事実と右(イ)(ロ)(ハ)の事実を併せ考えると、石山店は本件係争各年中、原告が文星堂の商号の下に経営していたものと認められる。

(5) 大久保店について

イ 成立に争いがない甲第六七号証、証人河原林武弘の証言により成立が認められる甲第三五号証、同証人の証言によれば、大久保ショッピングセンターに大久保店を出店するに際し、同ショッピングセンターに出資(二五三万円)をしたのは河原林武弘であり(甲三五)、大久保店の電話加入契約は河原林が締結していることが認められる(甲六七)。

ロ 昭和五五年一〇月二五日、原告は、伏見信用金庫六地蔵支店に対し、大久保支店開設のための融資申込書を提出し、融資を受けている(乙九四)。しかしこれは、河原林が右ショッピングセンターに出資した二五三万円や、店舗改造資金として、同人に貸付けられたものと認められる(証人河原林の証言)。

ハ 右認定イ、ロの各事実によれば、前認定(1)の各事実からの、原告が本件係争各年において大久保店を経営していたとの推認は動揺し、大久保店が原告の経営でないのではないかとの合理的疑いが生ずる。したがって、前認定(1)の各事実、右イ、ロの各事実のみにより、大久保店を原告の経営と認めることができないし、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

(6) 壬生店について

イ 成立につき争いがない甲第二四ないし第二七、第二九、第七八、第七九号証、第八一号証の二、乙第四〇号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第二八、第一一一、第一一二号証、証人出野清の証言により成立が認められる甲第三〇、第三一号証、証人出野清の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(イ) 壬生店の電気、水道、電話料金は、出野清が同人名義で支払っている(甲二四ないし二七、七八、七九)。

(ロ) 書籍雑誌は、大阪屋から直接壬生店に仕入れ、その代金は出野清が支払っている(甲一一一、一一二、二八ないし三一)。ただし、昭和五三年一二月から同五五年七月までは、原告名義の小切手で支払い(甲一一二、乙四〇)、昭和五五年一二月一日以降は、出野清名義の小切手で支払われている(甲二八ないし三一)。

(ハ) 出野清は、昭和五五年四月、中京税務署長に対し、開業日を「昭和五二年八月三〇日」と回答している(甲八一の二)。

ロ 右認定の各事実によると、前認定(1)の各事実から原告が本件係争年に壬生店を経営していたとの推認に動揺が生じ、壬生店が原告の実弟出野清により経営されていたのではないかとの合理的疑いが生ずる。

もっとも、出野清は、昭和五六年分の町民税、府民税申告書には、文玩具販売業で、屋号を「出野文具店」と記載したり(乙三七)、昭和五七年国民健康保険税調書では、収入を「給与」としている(乙三九)。また、別件訴訟で、職業を雑貨、玩具、文房具販売業とし、昭和五三年八月から営んでいる旨述べている(乙九三)。

これらの事実からは、出野清が壬生店で書籍販売業を営んでいたことに疑問の生ずる余地もあるが、だからといって、前認定(イ)(ロ)(ハ)を否定することはできず、原告が壬生店の経営者であることを認定するに足りない。

したがって、壬生店を原告が経営していたと認めることができない。

(三)  まとめ

以上によれば、原告が経営するのは、醍醐、小栗栖、石田、山科、石山店の各店舗である。大久保、壬生店の二店舗は、原告が経営しているものとはいえない。とすれば、原告の事業所得の推計にあたり、その基礎数値である売上原価は、大久保、壬生店を除いたものでなくてはならない。

なお、このように、原告名義の書籍雑誌及び文房具の仕入れのすべてを原告の事業にかかる売上原価と認めることはできない。そこで、被告主張の原告売上原価の半分以上二倍以下との基準で抽出された同業者が、原告と事業規模の点で類似しているといえるかにも一応疑問が生ずる。しかし、醍醐店、小栗栖店、石田店、山科店、石山店の書籍雑誌ないし文房具の売上原価の合計が、後記のとおりであるので、前記抽出基準により抽出された同業者の売上原価との間に事業規模の類似性を失い推計の合理性を否定すべきものとはいえない。

六  事業所得金額について

1  売上金額

昭和五四年分 一億七、七〇七万二、〇七八円

昭和五五年分 一億六、八二三万七、三六六円

昭和五六年分 一億七、五一〇万六、四五三円

右は、次の(一)ないし(三)の合計額である。

(一)  書籍、雑誌の売上金額

昭和五四年分 一億四、四八二万一、四一二円

昭和五五年分 一億三、七三〇万〇、九三四円

昭和五六年分 一億四、六二三万八、八五八円

右は後記2(一)の本件係争各年分の売上原価を、別表乙5の同業者の各年分の原価率の平均値で除した金額である。

(二)  文房具の売上金額

昭和五四年分 七七〇万二、五六六円

昭和五五年分 六四六万五、五九二円

昭和五六年分 五一五万六、八七六円

右は後記2(二)の本件係争各年分の売上原価を、別表乙6の同業者の各年分の原価率の平均値で除した金額である。

(三)  たばこの売上金額

昭和五四年分 二、四五四万八、一〇〇円

昭和五五年分 二、四四七万〇、八四〇円

昭和五六年分 二、三七一万〇、七一九円

乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件係争各年分の原告のたばこの売上金額は、被告の主張二2(三)(3)イ(ハ)のとおり認められる。

8 売上原価

昭和五四年分 一億四、二五八万六、三四六円

昭和五五年分 一億三、五八六万一、四六六円

昭和五六年分 一億四、〇三五万六、四二六円

右は、次の(一)ないし(三)の合計額である。

(一)  書籍雑誌の売上原価

(1) 昭和五四年分 一億一、四九七万三、七一九円

弁論の全趣旨により成立が認められる乙第四三ないし第四五号証、第九八号証によれば、昭和五四年分の原告の書籍雑誌の売上原価は、一億一、四九七万三、七一九円であると認められる(なお、別表乙8参照)。

(2) 昭和五五年分 一億〇、九二〇万九、一六三円

イ 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第四九ないし第五一号証、第五四号証、前示乙第九八号証によれば、昭和五五年分の原告及び河原林武弘(大久保店)の書籍雑誌の売上原価の合計は一億一、五六二万二、四六三円であると認められる(なお、別表乙8参照)。

ロ 昭和五五年分の大久保店の売上原価について検討する。

(イ) 証人河原林の証言によれば、昭和五五年一一月の開店当初は大久保店の店舗面積は二〇平方メートルであり、昭和五七年あるいは同五八年の改装により店舗面積は二六平方メートルに増加したことが認められる。また、証人河原林の証言により成立が認められる乙第六五号証によれば、大久保店の昭和六二年分の書籍雑誌の仕入金額は一、八二八万〇、〇〇〇円と認められる。したがって、昭和五五年分の大久保店の書籍雑誌の売上原価は、昭和六二年分の仕入金額に基づいて、営業月数と店舗面積とを勘案して推計するのが合理的である。すると、次の計算式のとおり、二三四万三、五八九円となる。

18,280,000×20/26×2/12=2,343,589(一円未満切捨て)

(ロ) また、昭和五五年分の大久保店の売上原価として、開店時の書籍雑誌の品揃のための経費も考えるべきである。そして、これは、期末棚卸金額と同額と推定できる。そして、期末棚卸資産は、同業者との店舗の面積比から推計するのが合理的である。弁論の全趣旨によれば、右数額は、四〇六万九、七一一円であると認められる(別表乙7の<1>「書籍・雑誌の期末たな卸金額の計算」参照)。

ハ したがって、昭和五五年分の原告の書籍雑誌の売上原価は、イの金額からロ(イ)(ロ)の各金額を控除して、一億〇、九二〇万九、一六三円となる。

(3) 昭和五六年分 一億一、五三八万二、四五九円

イ 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五五ないし第五七、第五九、第六〇、第九八号証によれば、昭和五六年分の原告及び河原林武弘(大久保店)の売上原価の合計は、一億二、九四四万三、九九七円であると認められる(なお、別表乙8参照)。

ロ 昭和五六年分の大久保店の売上原価は、昭和六二年分の仕入金額に基づいて、店舗面積を勘案して推計するのが合理的である。すると、次の計算式のとおり、一、四〇六万一、五三八円となる。

18,280,000×20/26=14,061,538(一円未満切捨て)

ハ したがって、昭和五六年分の原告の書籍雑誌の売上原価は、イの金額からロの金額を控除して、一億一、五三八万二、四五九円となる。

(二)  文房具の売上原価

昭和五四年分 五四六万一、八九〇円

昭和五五年分 四五七万九、五七九円

昭和五六年分 三六一万九、〇九六円

弁論の全趣旨により成立が認められる乙第六一、第六二、第六四、第六五、第六七ないし第六九、第七一、第七二、第七四、第七五、第七七、第七八、第八〇ないし第八七号証によれば、原告の文房具の売上原価は、右のとおり認められる(なお、別表乙9参照)。

(三)  たばこの売上原価

昭和五四年分 二、二一五万〇、七三七円

昭和五五年分 二、二〇七万二、七二四円

昭和五六年分 二、一三五万四、八七一円

右は、前記1(三)の本件係争各年分の原告のたばこの売上金額から、後記3(三)の各算出所得金額を控除して得られる数額であり、被告の主張二2(三)(3)ロ(ハ)のとおりとなる。

3  算出所得金額

昭和五四年分 二、六二二万一、八八〇円

昭和五五年分 二、四一四万二、六三四円

昭和五六年分 二、五四九万六、九五二円

右は、次の(一)ないし(三)の合計額である。

(一)  書籍、雑誌の算出所得金額

昭和五四年分 二、二二三万〇、〇八六円

昭和五五年分 二、〇四〇万二、九一八円

昭和五六年分 二、二〇六万七、四四三円

右は前記1(一)の本件係争各年分の売上金額に、別表乙5の各年分の同業者の所得率の平均値を乗じて得られる数額である。

(二)  文房具の算出所得金額

昭和五四年分 一五九万四、四三一円

昭和五五年分 一三四万一、六一〇円

昭和五六年分 一〇七万三、六六一円

右は、前記1(二)の本件係争各年分の売上金額に、別表乙6の各年分の同業者の所得率の平均値を乗じて得られる数額である。

(三)  たばこの算出所得金額

昭和五四年分 二三九万七、三六三円

昭和五五年分 二三九万八、一〇六円

昭和五六年分 二三五万五、八四八円

原告の本件係争各年分のたばこ小売業にかかる算出所得金額は、各年分のたばこの売上金額に、たばこ専売法規則一八条所定の差益率を乗じて算出するのが合理的である。したがって、右記載の各数額となる。

4  雇人費

昭和五四年分 八四九万九、四五九円

昭和五五年分 六九四万八、二〇三円

昭和五六年分 八〇七万二、四〇七円

右は、前記1の本件係争各年分の原告の売上金額に、別表乙5の書籍雑誌小売業の同業者の雇人費率の平均値を乗じて得られる数額である。

5  地代家賃

被告が主張する、本件係争各年分の原告の地代家賃(但し、小栗栖店、山科店及び石田店についてのもの。被告の主張二2(三)(3)ホにいう別表乙4<3>「地代家賃」参照)は、原告が実額の主張(別表甲2の3、同3の3、同4の3参照)において主張する地代家賃額よりも多額である。したがって、経費である地代家賃の額は、原告が、実額の主張(別表甲2の3、同3は、被告の主張額にしたがって計算し、昭和五四年分が二二八万〇、〇〇〇円、同五五年分が二二八万〇、〇〇〇円、同五六年分が二八二万〇、〇〇〇円となる。

6  事業専従者控除額

原告の本件係争各年分の事業専従者控除が、各八〇万円であることは、当事者間に争いがない。

7  事業所得の金額

原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、前記3の各算出所得金額から、前記4ないし6の各金額を控除した金額である。したがって、昭和五四年分が一、四六四万二、四二一円、同五五年分が一、四一一万四、四三一円、同五六年分が一、三八〇万四、五四五円となる(以上、別表裁1ないし3参照)。

七  原告の実額の主張について

原告は、その反論三2において、本件係争各年分につき売上金額、売上原価、一般経費、特別経費、事業所得金額の実額の主張をする。以下、これについて検討する。

そもそも、所得実額の主張をもって被告の推計を争うためには、売上げ及び経費の双方につき洩れのない総額の実額を主張立証して、正確な洩れのない所得の実額を証明する必要がある。すなわち、原告において帳簿書類を提示しない等推計の必要性が認められる以上、原告には、係争年度における正確な一切の帳簿書類を提出し、これにより求められる売上額の総額が洩れのない正確なものであることを主張、立証すべき責任がある。

本件において、原告は、醍醐店、小栗栖店の売上実額のみを主張し、石田、山科、石山店の売上実額を主張立証しないし、藤商事、麻中KKからの仕入れ及びその売上に洩れがある(乙九四)。したがって、原告主張の売上金額が、洩れのない売上総額であることを認めるに足る的確な証拠がない。したがって、その余について判断するまでもなく、原告の実額反証の主張は採用できない。

八  結論

したがって、本件各処分は、前認定六7の事業所得金額の範囲内のものであって、いずれも適法であり、これに違法な点はない。

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 佐藤洋幸)

別表甲1

課税処分経緯表

<省略>

別表甲2

年度損益計算書

<省略>

別表甲3

年度損益計算書

<省略>

別表甲4

年度損益計算書

<省略>

別表乙1

昭和54年分事業所得金額計算書

<省略>

別表乙2

昭和55年分事業所得金額計算書

<省略>

別表乙3

昭和56年分事業所得金額計算書

<省略>

別表乙4

<1>書籍・雑誌の仕入金額

<省略>

<2>文房具の仕入金額

<省略>

<3>地代家賃

<省略>

別表乙5

(書籍雑誌小売業)

<省略>

別表乙6 No.1

(文房具小売業)

<省略>

別表乙6 No.2

(文房具小売業)

<省略>

別表乙7

<1> 書籍・雑誌の期末棚卸金額の計算

1.同業者の1m2当り期末たな卸金額の計算

<省略>

2.原告の新規開店の期末たな卸金額の計算

<省略>

<2> たばこの差益金額の計算

<省略>

別表乙8

書籍・雑誌の売上原価(仕入金額)について(取引先 大阪屋)

<省略>

別表乙9

文玩具の売上原価(仕入金額)

<省略>

別表裁1

昭和54年分事業所得金額計算書

<省略>

別表裁2

昭和55年分事業所得金額計算書

<省略>

別表裁3

昭和56年分事業所得金額計算書

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例